医療安全管理指針

2011年6月30日
鳥取生協病院 医療安全管理室


1. 総則

1.1 医療の安全性に関する基本的な考え方

医療の安全性を考える場合、「患者の立場に立ち、患者が安心して医療を受けられる環境を整えること」を基本理念とする。この基本理 念の趣旨は、患者が医師、医療機関を信頼し、医療従事者も安心して医療を提供できるシステムの構築を目指し、本来の医療の姿である、患者と医療従事者双方 の安心・ 安全の確保につなげていくことである。

一般論として、事故はある特定の者の人為的なミスやエラーによって引き起こされるものと考えがちであるが、多くの場合、それは事故 の一面を捉えているのにすぎない。たしかに事故は人為的なミスや エラーを媒介として発生することは事実であるが、事故の発生までには複数の関与者による二重三重のミスやエラーが介在しており、しかもそうした複合的なミ スやエラーの連鎖を許すシステムや組織の欠 陥こそが、根本的な意味での事故原因である。したがって、過去に起きた事故の発生原因を究明する際に、最終的な行為者を特定し、その個人を非難し問責する ことは事故の再発防止にとっては役立たない だけでなく、妨げることにすらなり得る。

具体的な事故予防策を考える際には、「人間は必ずミスを犯す」という事実を忘れてはならない。すべての事故防止対策は、この前提に 基づいて策定されるべきであり、ミスやエラーの発生を如何に少なくするかと同時に、万一発生したミスやエラーをいかに事故へと結びつかせないか、という fail safe の発想こそが肝要である。
上記に指摘したことに加え、医療事故の予防においては、さらに医療に固有もしくは顕著な事情を踏まえ、以下に示す点を考慮する必要がある。

  • (ア)医療を担うものとしての基本的な姿勢を再確認する
  • (イ)マイナスの情報を隠さず詳らかにする習慣を育てる
  • (ウ)原因追求の作業を「犯人捜し」で終わらせてはいけない
  • (エ)正確な情報に基づき事故防止予防システムを構築し活用すること

最後に、医療事故は何よりもまず起こさないことが大切であるが、人間のミスやエラーは完全に排除 仕切れないものである以上、それが事故へと発展した場合に的確な対処法も備えておくことは必要である。 医療事故訴訟を提起した原告患者側が、医師側の責任を追及するに至った動機は、医師が十分な説明を してくれなかったから、とするものが最も多く、次いで二度と事故を起こさないための努力不足と謝罪 の姿勢が見られなかったこと、経済的な保障を求めるためという理由が挙げられている。この傾向は欧 米における複数の客観的調査によって裏付けられている。この結果から明らかなように、コミュニケーションとアベイラビリティ(医師がそこにいると患者が感 ずること)は重要で、紛争抑止効果は大きい。 患者の納得感(満足度)の向上は、医療技術の向上以上に紛争を防ぐことが実証されているというべきである。さらに患者とのコミュニケーションを向上し意見 に耳を傾けることは、紛争防止効果に止まらず、医療事故の予防にも寄与する結果となる。

1.2 医療の安全のための具体的な推進方策

  1. (1)医療安全管理体制の構築
    医療事故予防ならびに事故発生時の緊急対策について、院内全体が機能するシステムとして整え、効率的な医療安全管理体制を構築する
  2. (2)ニアミス・医療事故などの報告制度の確立
    医療安全文化の徹底と、具体的な予防・再発防止のために、医療事故、ニアミスなどの情報収集、 分析・評価、対策立案を行う体制を確立する
  3. (3)安全教育・研修の実施
    医療安全に関する基本的な考え方や医療事故の予防・再発防止策の周知徹底のため、職員全員を対象にした教育・研修を計画的に企画、実施する
  4. (4)事故発生時の対応方法の確立
    事故発生時には、患者の治療を最優先するとともに、適切な対応について、職員に周知徹底させる

2. 医療安全管理体制の構築

2.1 医療安全管理室の設置

医療安全に関する院内全体の問題点を把握し、事故発生の防止対策及び教育を行うと共に、医療安全管 理活動を担うため、関係する委員会・会議・各部門機能を統括し、調整しかつ支援、管理する機関として医療安全管理室を設置する。

  1. (1)構成員は、部門、医療の安全にかかわる委員会から院長が任命する。室長は(副)院長が担い、医療安全管理者としてリスクマネージャーを配置する。医薬品安全管理責任者として薬剤師、医療機器安全管理責任者として臨床工学技士を任命する。
  2. (2)委員会は毎月 1 回開催する。
  3. (3)医療安全管理室会議の任務を達成するため、医療事故防止対策委員会、感染対策委員会、医薬品安全管理委員会、医療機器安全管理委員会、透析機器安全管理委員会、院内暴力対策として安心プロジェクトを置く。
  4. (4)必要な事項が生じれば速やかに院長(管理会議)に報告・承認を求める。医療事故発生時またはその他の必要時には臨時の委員会を遅滞なく開催し、発生事故に対する緊急の対応を検討する。

2.2 医療安全管理者の位置づけ

院長から安全管理のために必要な権限の委譲と、人材、予算、インフラなど必要な資源を付与されて、院長の指示に基づいてその業務を行うものとする。

  1. (1) 役割
    1. 安全管理体制の構築
    2. 教育・研修の実施
    3. 分析・対策立案、フィードバック評価
    4. 医療事故への対応
    5. 安全文化の醸成
  2. (2) 業務と権限
    1. 安全管理部門の業務に関する企画立案及び評価を行う
    2. 定期的に院内を巡視し各部門における医療安全対策の実施状況を把握・分析し、医療安全確保のために必要な業務改善等の具体的な対策を推進する
    3. 部門の医療事故防止対策委員への支援を行う
    4. 医療安全対策の体制確保のための各部門との調整を行う
    5. 医療安全対策にかかる体制確保のための職員研修を企画・実施する
    6. 相談窓口の担当者と連携を図り、医療安全対策にかかる患者・家族の相談に適切に応じる体制を支援する

2.3 医薬品安全管理責任者の位置づけ

医薬品の使用に関わる安全な使用管理のための責任者(以下「医薬品安全管理責任者」という)を置く。 医薬品安全管理責任者は院長が指名する。医薬品安全管理責任者は、院長の指示のもとに、院内の医薬品に係る安全管理のための体制の確保に努めるとともに、 その結果等を適宜、医療安全管理室に報告する。

2.4 医療機器安全管理責任者の位置づけ

医療機器の安全管理のための責任者(以下「医療機器安全管理責任者」という)を置く。
医療機器安全管理責任者は、院長が指名する。 医療機器安全管理責任者は、院長の指示のもとに、院内の医療機器に係る安全管理のための体制の確保 に努めるとともに、その結果等を適宜、医療安全管理室に報告する。

3.報告等に基づく医療に関わる安全確保を目的とした改善方策

3.1 医療事故報告基準

3.1.1 目的

鳥取生協病院における医療事故、ニアミスに関し、病院内における報告基準を定める。

3.1.2 定義

医療事故、ニアミスの定義は、次のとおりとする。

  1. (1) 医療事故 ・・・医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故で、以下を含む。なお、医療従事者の過誤・過失の有無は問わない。
    1. 医療行為により死亡、生命の危険、病状の悪化等の身体的被害および苦痛、不安等の精神的被 害が生じたもの
    2. 患者が廊下で転倒し、負傷した事例のように、医療行為とは直接関係しないもの
    3. 注射針の誤刺のように、医療従事者に被害が生じたもの
    4. 患者に実施されたが、結果的には被害がなく、またその後の観察も不要であったもの
  2. (2) ニアミス ・・・患者に影響を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で"ヒヤリ"としたり "ハット"した経験を有する事例。具体的には、ある行為が患者には実施されなかったが、仮に実施されたとすれば、何らかの被害 が予測されるもの

3.1.3 医療事故レベル分類表

事故レベル事故の内容
レベル0(ニアミス) 事故が起こりそうな環境に前もって気づいた事例
間違ったことが患者に実施される前に気づいた事例
レベル1 間違ったことが実施されたが、患者には変化が無かった事例
レベル2 間違ったことが実施されたが、治療の必要が無かった事例
(一時的・持続的な観察や安全確認のための検査が必要な場合も含む)
レベル3 事故により治療が必要になった事例
レベル4 事故により障害が残った事例
レベル5 事故が死因となった事例

3.2 報告

3.2.1 口頭報告

事故・トラブルが発生した場合には、当該本人もしくは発見者が職責者、主治医に速やかに口頭 報告し、患者への対応を行う

画像回り込み<図版あり>

  1. (1)院長は委員会で検討することが必要な事項に関しては、医療安全管理者・医療安全管理室長に報告すると共に、直ちに医療事故対策委員会を開催し、検討する。
  2. (2)患者の生死に関わる医療事故等で、緊急的な対応が必要な場合は、「医療事故発生時の対応マニュアル」に準じて報告を行う。
  3. (3)院内における報告の方法 緊急報告は、口頭となるが、必要最小限の記録を可能な限り添えて、情報の信頼性を高める。 正式な医療事故報告は、速やかに文書で行う。

 3.2.2 報告書

  1. (1)ニアミス・医療事故報告書
    1. レベル0・レベル1・レベル2(インシデント)
      事例を発見・経験した職員が「ニアミス・医療事故報告書」に記入後、職場責任者、医療事故防 止対策委員を経て、数日以内に医療安全管理室へ提出する。職場の検討を行い、後日再提出する。 無記名での報告を可とする。
    2. レベル3・レベル4・レベル5
      まず口頭を以って、事故当事者(発見者)→職責者→医療安全管理室者(又は師長室又は事務長 室)→医療安全管理室長→院長へ直ちに報告を行うものとする。職場内での検討を直ちに行い、 事故発生後 24 時間以内に報告書を医療安全管理室へ提出する。必要となる場合には詳細を後日顛末書にて報告する。 報告者・職責者の記名を原則とする。
  2. (2)転倒転落報告書

    1. 転倒転落による損傷レベル分類は日本病院協会の基準を用いる
    2. 報告は速やかに行い、転倒後24時間経過時の患者の状態をフォローアップし、再報告する
損傷レベル分類損傷の内容
1 なし 患者に損傷はなかった
2 軽度 包帯、氷、創傷洗浄、四肢の挙上、局所薬が必要となった、あざ・擦り傷を招いた
3 中程度 縫合、ステリー・皮膚接着剤、副子が必要となった、または筋肉・関節の挫傷を招いた
4 重症 手術、ギブス、牽引、骨折を招いた・必要となった、または神経損傷・身体内部の損傷の診察が必要となった
5 死亡 転倒による損傷の結果、患者が死亡した
6 UTD 記録からは判定不可能

  1. (3)バリアンス報告書
    1. 【手術・侵襲的検査】/バリアンス報告書
    2. 【侵襲的検査・処置・治療】
    3. 手術・侵襲的検査・処置・治療において予期しない有害事象が発生した場合、第一報を速やかに医療安全管理室へ提出する。主として当事者医師が記入する
  1. (4)ニアミス・医療事故報告書(職責者用)の提出
  2.   職責者は発生事例について職場で分析・検討し、必要な業務改善を行う。
    1. 基準・手順書を作成または変更した場合は、文書登録とする
    2. 職責者(または担当者)は「ニアミス報告書(職責者用)」を作成し、医療事故防止対策委員会へ提出する(翌月10日を提出期限とする)

     

  3. (5)安全サイクル報告書
    1. 医療安全管理者は、主な事例について、一定期間経過時に関連職場に対して検討を依頼する
    2. 職責者は、再発防止策が適切であったか、類似事故が発生していないを職場で振り返り、安全サイクル報告書を提出し、継続的改善につなげる。

4 医療安全管理のための研修

4.1 研修の実施

  1. (1)医療安全管理として、1年に2回程度、院内感染対策として、1年に2回程度全職員を対象とした医療安全管理のための研修を定期的に実施する。
  2. (2)医薬品安全管理、医療機器安全管理として必要に応じて、必要な対象者に実施する。
  3. (3)研修は、医療安全管理の基本的な考え方、事故防止の具体的な手法等を全職員に周知徹底することを通じて、職員個々の安全意識の向上を図るとともに、本院全体の医療安全を向上させること を目的とする。
  4. (4)職員は、研修が実施される際には、極力、受講するよう努めなくてはならない。
  5. (5)院長は、院内で重大事故が発生した後など、必要があると認めるときは、臨時に研修を行うものとする。
  6. (6)医療安全管理室は、研修を実施したときは、その概要(開催日時、出席者、研修項目)を記録し、2年間保管する。

4.2 研修の実施方法

医療安全管理のための研修は、病院長等の講義、院内での報告会、事例分析、外部講師を招聘しての講 習、外部の講習会・研修会の伝達報告会または有益な文献の抄読などの方法によって行う。

5 重大事故等発生時の対応

「医療事故発生時の対応マニュアル」に詳細な手順を定めるが、次の点に注意して対応に当たる。

  1. 1) 重大性の認識
    患者の救命・治療を最優先し、チームで対応する
  2. 2) 組織的対応
    発生後速やかに医療安全管理室に報告し、組織的に対応する
  3. 3) 正確な事実調査
    事実経過を経時的、客観的に正確に記録する
  4. 4) 患者家族への敏速で誠意ある対応
    患者及び家族への説明は管理部を交えて、主治医が事実を説明する
  5. 5) 届出と公表
    事故の公表については、「医療事故発生時の対応マニュアル」に準じて、最終的には院長の判断 で決定する

6.安全管理のための指針・マニュアルの整備

安全管理の目的で指針・マニュアルを整備する

  1. (1)本指針・マニュアルの内容 については、院長、医療安全管理室、医療事故防止対策委員会等を通じて、全職員に周知徹底する。
  2. (2) 本指針・マニュアルの見直し、改正
    1. 医療安全管理室は、少なくとも年1回以上、本指針の見直しを議事として取り上げ検討する
    2. 本指針の改正は、医療安全管理室・管理会議の決定により行う。
  3. (3)本指針の公開
    本指針の内容をホームページにて公開するとともに、職員は患者との情報共有に努める

7.患者相談に関する対応

医療に安全性を確保し納得できる医療サービスの提供を図るため、日常的な患者相談窓口を設置する。 相談窓口として、管理看護師長が誠実に対応し、医療安全に関する相談には、医療安全管理者が対応する。
「患者相談に関する規程」を別途定める。

2002.8.14 医療事故防止対策マニュアルとして作成
2005.4.26 医療安全管理として全面改訂
2008.10.1 医療安全管理義務化対応として改訂
2009.9.9 改訂
2010.4.1 医療安全管理者の業務指針を定める
2011.7.1 重大事故発生時の対応等を改訂